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SAMPLE「あなたの過去を盗んでも構いませんか」そのメールが届いたのは、彼女が宇宙
情報管理組織に入職して間もないときだった。メールにはrob, stolなど沢山の
盗むという言葉が樹図のように書かれていた。
彼女の仕事は、日々宇宙を漂う宇宙のゴミの状況を把握する各国の情報を地球全
体あるいはどこかにあるかもしれない生命体へ発信するものだ。米国と中国では
つかんでいる情報に齟齬があるし、日本に向かって破片が落ちてくる可能性だっ
てあるのにすっかり宇宙ビジネスに出遅れた日本は彼女たちの情報がなければ消
えてしまう。この組織は地球規模で、そうした違いを検証し、ひとつの公平な情
報として伝える役割を担っている。彼女はそれまで無職の時が長かった。が、猛
勉強しこの仕事を勝ち取った。これからお金になる分野はと考えると宇宙しか見
当たらなかった。
そんな特異な仕事を得たことよりも彼女が不思議に思うことがある。それがあの
「過去を盗む」というメールだった。「あなたの過去の10年間のうち何年間かを
盗んでも構いませんか」
送り主は所属機関からだった。一度、質問をしてみたが「直接会ってお話をうか
がう機会はありません」と形式的な答えが出て、チャットボットでは埒があかな
いしただのアンケート程度だろうと、無視しても続々と届くメールをそのまま無
視した。アカウントが確かに職場だからとくにブロックもせずにいた。
一見、いたずらのようにも思えるメールだったが気にしてしまう理由が彼女には
あった。実は彼女、面接の志望動機でこう話したのだ。
「私には、今だからそう思うのだとわかってはいますが、10年間、あっという間
に過ぎてしまった、何もできなかった10年間がありました。それに気がついて勉
強してここにたどり着きました。10年前に戻ってなにかできるとか、もっと早く
気づけるとは思いません。でもすこし後悔しています。もっとなにかできただろ
うって」そう言って彼女はその後1年半で猛勉強したことなどへのアピールへ繋
げたのだが、その秘匿部門とやらの誰かが面接官として参加していてその人がこ
の話に興味を持ったのかもしれないという予想を消せずにいた。
ある日、彼女は妙な話を聞いた。他愛ないお喋りだったが、組織を攪乱する目的
で、様々な国が、通信の邪魔をして余計な情報を伝達しているらしいというの
だ。それは国家間の争いになるような大事というよりは、誰かの奥さんを奪いた
いからあっちを忙しくさせて夫を仕事に縛り付けようといった極めて土臭い欲望
が絡んでいるというのだ。彼女には無縁のことだった。例の10年間を経て、誰か
を恋しいとおもう気持ちがなくなり、そのとき限り遊べる相手がいれば、それで
良かった。だから彼女はそんな国家の要人たちがうらやましく、その話に加わる
ことはしなかった。